ココナットのみ
ココナットの実

冒頭文

妾(わたし)は今、神戸海岸通りのレストラン・エイシャの隅ッこに、ちょこりんと腰をかけている。油気のない前髪をういういしく垂らして、紫ミラネーゼの派手な振袖を着て、金ピカの塩瀬(しおぜ)を色気よく高々と背負(しょ)っているのだから、ウッカリした男の眼には十四五ぐらいにしか、うつらないでしょうよ。どうぞ、そのおつもりでネ……ホホホホホ……。 妾の手にはタッタ今ボーイさんが買って来てくれた号外

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夢野久作全集6
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年3月24日