めをひらく
眼を開く

冒頭文

私は若い時分に、創作に専心したいために或る山奥の空家に引込んで、自炊生活をやったことがある。そうしてその時に、人間というものの極く僅かばかりの不注意とか、手遅れとかいうものが、如何に深刻な悲劇を構成するものであるかということをシミジミ思い知らせられる出来事にぶつかったものである。 つまり私は、そうした隠遁生活をして、浮世離れた創作に熱中していたために、法律にかからない一つの殺人罪を犯した

文字遣い

新字新仮名

初出

「逓信協会雑誌」1935(昭和10)年10月号

底本

  • 夢野久作全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1992(平成4)年9月24日