つげしろうざえもん
津下四郎左衛門

冒頭文

津下四郎左衛門(つげしらうざゑもん)は私の父である。(私とは誰(たれ)かと云ふことは下に見えてゐる。)しかし其名は只(たゞ)聞く人の耳に空虚なる固有名詞として響くのみであらう。それも無理は無い。世に何の貢献もせずに死んだ、艸木(さうもく)と同じく朽(く)ちたと云はれても、私はさうでないと弁ずることが出来ない。 かうは云ふものの、若(も)し私がここに一言を附け加へたら、人が、「ああ、さうか

文字遣い

新字旧仮名

初出

「中央公論」1915(大正4)年4月

底本

  • 鴎外歴史文學集 第三巻
  • 岩波書店
  • 1999(平成11)年11月25日