へんしん
片信

冒頭文

A兄 近来出遇(であ)わなかったひどい寒さもやわらぎはじめたので、兄の蟄伏期(ちっぷくき)も長いことなく終わるだろう。しかし今年の冬はたんと健康を痛めないで結構だった。兄のような健康には、春の来るのがどのくらい祝福であるかをお察しする。 僕の生活の長い蟄眠期(ちつみんき)もようやく終わりを告げようとしているかに見える。十年も昔僕らがまだ札幌にいたころ、打ち明け話に兄にいっておい

文字遣い

新字新仮名

初出

「我等」1922(大正11)年3月

底本

  • 惜しみなく愛は奪う
  • 角川文庫、角川書店
  • 1969(昭和44)年1月30日改版