冒頭文

医学士ウラヂミル・イワノヰツチユ・ソロドフニコフは毎晩六時に、病用さへなければ、本町(ほんまち)へ散歩に行くことにしてゐた。大抵本町で誰か知る人に逢つて、一しよに往つたり来たりして、それから倶楽部へ行つて、新聞を読んだり、玉を突いたりするのである。 然るに或日天気が悪かつた。早朝から濃い灰色の雲が空を蔽つてゐて、空気が湿つぽく、風が吹いてゐる。本町に出て見たが、巡査がぢつとして立つてゐる

文字遣い

新字旧仮名

初出

1910(明治43)年9月1日「学生文藝」一ノ二

底本

  • 鴎外選集 第十五巻
  • 岩波書店
  • 1980(昭和55)年1月22日