いたばさみ
板ばさみ

冒頭文

プラトン・アレクセエヰツチユ・セレダは床の中でぢつとしてゐる。死んでゐるかと思はれる程である。鼻は尖つて、干からびた顔の皮は紙のやうになつて、深く陥つた、周囲(まはり)の輪廓のはつきりしてゐる眼窩(がんくわ)は、上下(うえした)の瞼が合はないので、狭い隙間を露(あらは)してゐる。その隙間から、これが死だと云ふやうに、濁つた、どろんとした、硝子(ガラス)めいた眼球(めだま)が見える。 室内

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田文学 二ノ七」1911(明治44)年7月1日

底本

  • 鴎外選集 第15巻
  • 岩波書店
  • 1980(昭和55)年1月22日