センツアマニ
センツアマニ

冒頭文

島は深い沈黙の中に眠つてゐる。海も死んでゐるかと思はれるやうに眠つてゐる。秘密な有力者が強い臂を揮つて、この怪しげな形をした黒い岩を、天から海へ投げ落して、その岩の中に潜んでゐた性命を、その時殺してしまつたのである。 遠くから此島を見れば妙な形をしてゐる。遠くからと云ふのは、天の川の黄金色(わうごんしよく)をした帯が黒い海水に接した所から見るのである。そこから見れば、此島は額の広い獣のや

文字遣い

新字旧仮名

初出

「三田文学」四ノ八、1913(大正2)年8月1日

底本

  • 鴎外選集 第十五巻
  • 岩波書店
  • 1980(昭和55)年1月22日