からふとだつごくき
樺太脱獄記

冒頭文

一 己はこのシベリア地方で一般に用ゐられてゐる、毛織の天幕の中に住んでゐる。一しよにゐた男が旅に出たので、一人でゐる。 北の国は日が短い。冷たい霧が立つて来て、直ぐに何もかも包んでしまふ。己は為事(しごと)をする気になられない。ランプを点(つ)けるのが厭なので、己は薄暗がりに、床(とこ)の上で横になつてゐる。あたりが暗くて静かな時には、兎角重くろしい感じが起るものである。己はせうこ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝倶楽部 一八ノ一」1912(明治45)年1月1日

底本

  • 鴎外選集 第15巻
  • 岩波書店
  • 1980(昭和55)年1月22日