パアテル・セルギウス
パアテル・セルギウス

冒頭文

一 千八百四十何年と云ふ頃であつた。ペエテルブルクに世間の人を皆びつくりさせるやうな出来事があつた。美男子の侯爵で、甲騎兵聯隊からお上(かみ)の護衛に出てゐる大隊の隊長である。この士官は今に侍従武官に任命せられるだらうと皆が評判してゐたのである。侍従武官にすると云ふ事はニコラウス第一世の時代には陸軍の将校として最も名誉ある抜擢であつた。この士官は美貌の女官と結婚する事になつてゐた。女官は皇后

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝倶楽部」一九ノ一二(初出の題「出家」)、1913(大正2)年9月1日

底本

  • 鴎外選集 第十四巻
  • 岩波書店
  • 1979(昭和55)年12月19日