さいじつ
祭日

冒頭文

ミサを読んでしまつて、マリア・シユネエの司祭は贄卓(したく)の階段を四段降りて、くるりと向き直つて、レクトリウムの背後(うしろ)に蹲(うづくま)つた。それから祭服の複雑な襞の間を捜して、大きいハンカチイフを取り出して、恭(うや〳〵)しく鼻をかんだ。オルガン音階のC音を出したのである。そして唱へ始めた。「主(しゆ)に於いて眠り給へる帝室評議員アントン・フオン・ヰツク殿の為めに祈祷せしめ給へ。主よ。御

文字遣い

新字旧仮名

初出

「心の花」一六ノ一、1912(明治45)年1月1日

底本

  • 鴎外選集 第十四巻
  • 岩波書店
  • 1979(昭和54)年12月19日