ぼうかせん
防火栓

冒頭文

度度噂のあつた事が、いよ〳〵実行せられると聞いた時、市中の人民は次第に興奮して来た。これまで毎年ロオデンシヤイド市に来る曲馬師の組は、普通の天幕の中で興行したのだが、それはもう罷(や)められる。旅興行が定(ぢやう)興行になる。お寺のすぐ脇のマリアの辻には、鉄骨の大曲馬場が立つ。五千人入である。やれ〳〵安心だ。さうなれば、誰でも往かれる。そのうち番附が出た。どの番組が早く見たいと云はうか、どうも気が

文字遣い

新字旧仮名

初出

「昴」五ノ一二、1913(大正2)年12月1日

底本

  • 鴎外選集 第十四巻
  • 岩波書店
  • 1979(昭和54)年12月19日