ふかせつ
不可説

冒頭文

愛する友よ。此手紙が君の手に届いた時には、僕はもう此世にゐないだらう。此手紙の這入つた封筒が封ぜられて、僕の忠実な家隷(けらい)フランソアが「すぐに出せ」と云ふ命令と共に、それを受け取るや否や、今物を書いてゐる此机の引出しから、僕は拳銃を取り出して、それを手に持つて長椅子の上に横になるだらう。後(のち)に僕の死んでゐるのが、そこで見出されるだらう。長椅子に掛けてある近東製の氈(かも)を、流れ出る僕

文字遣い

新字旧仮名

初出

「昴」四ノ五、1912(明治45)年5月1日

底本

  • 鴎外選集 第十四巻
  • 岩波書店
  • 1979(昭和54)年12月19日