わたしのちちとはは
私の父と母

冒頭文

私の家は代々薩摩(さつま)の国に住んでいたので、父は他の血を混えない純粋の薩摩人と言ってよい。私の眼から見ると、父の性格は非常に真正直な、また細心なある意味の執拗(しつよう)な性質をもっていた。そして外面的にはずいぶん冷淡に見える場合がないではなかったが、内部には恐ろしい熱情をもった男であった。この点は純粋の九州人に独得な所である。一時にある事に自分の注意を集中した場合に、ほとんど寝食を忘れてしま

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1918(大正7)年2月

底本

  • 惜しみなく愛は奪う
  • 角川文庫、角川書店
  • 1969(昭和44)年1月30日改版初版