ひとつのめばえ
一つの芽生

冒頭文

この一篇を我が亡弟に捧ぐ        一 もう四五日経つと、父のおともをして私も珍らしく札幌へ行くことになっていたので、九月が末になると、家中の者が寄り集って夕飯後を、賑(にぎ)やかに喋り合うのが毎晩のおきまりになっていた。 その夜も例の通り、晩餐(ばんさん)がすむと皆母を中心に取り囲んで、おかしい話をしてもらっては、いかにも仲よく暮している者達らしい幸福な、門の外まで響き渡る

文字遣い

新字新仮名

初出

「新日本」1918(大正7)年1月号

底本

  • 宮本百合子全集 第一巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年4月20日