たそがれ |
| 黄昏 |
冒頭文
一 水口の硝子戸が、がらりと開いた。 ぼんやりとして台の前に立ち、燈(あかり)を浴びて煮物をかきまわしていたおくめは、驚いて振向いた。細めに隙(あ)いたところから、白い女の顔らしいものが見える。彼女がその方を見たと判ると、外の顔は前髪を一寸傾け、 「今晩は」と云いながら、残りの戸を全部明けて姿を現した。「まあ、何だろう、のぶちゃんかえ」 緊張し、訝しげな色を湛えていたおくめの両眼には、忽ち何
文字遣い
新字新仮名
初出
「婦人画報」1922(大正11)年4月号
底本
- 宮本百合子全集 第二巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年6月20日