ばんしゅうへいや
播州平野

冒頭文

一 一九四五年八月十五日の日暮れ、妻の小枝が、古びた柱時計の懸っている茶の間の台の上に、大家内の夕飯の皿をならべながら、 「父さん、どうしましょう」 ときいた。 「電気、今夜はもういいんじゃないかしら、明るくしても——」 茶の間のその縁側からは、南に遠く安達太郎(あだたら)連山が見えていた。その日は午後じゅうだまって煙草をふかしながら山ばかり眺めていた行雄が、 「さあ…

文字遣い

新字新仮名

初出

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

底本

  • 宮本百合子全集 第六巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年1月20日