ふたつのにわ |
二つの庭 |
冒頭文
一 隣の家の篠竹が根をはって、こちらの通路へほそい筍(たけのこ)を生やしている。そこの竹垣について曲ると、いつになく正面の車庫の戸があけはなされていた。自動車の掃除最中らしいのに、人の姿はなくて、トタン張りの壁に裸電燈が一つ、陰気にぼんやり灯っている。 伸子はけげんそうな顔で内玄関へ通じるその石敷道を歩いて行った。すると、ゆずり葉の枝のさし出た内庭の垣の角から、ひょっこり江田が姿を
文字遣い
新字新仮名
初出
「中央公論」1947(昭和22)年1、3~9月号
底本
- 宮本百合子全集 第六巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年1月20日