けさのゆき
今朝の雪

冒頭文

太陽が照り出すと、あたりに陽気な雪解けの音が響きはじめた。 どこかの屋根から小さい地響きを立てて雪がすべり落ちる。いろいろな音いろで、雨だれがきこえはじめ、向いの活版屋の二階庇にせわしないしぶきがとんでいる。昼に間もない時刻の日光が、そちら側の家並を真正面に照らして、しぶきはまわりに小さな虹でも立てそうに輝きながらとび散っている。 夜のうちに降り積って、峯子たちが出勤する頃には

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人朝日」1941(昭和16)年4月号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日