すぎがき
杉垣

冒頭文

一 電気時計が三十分ちかくもおくれていたのを知らなかったものだから、二人が省線の駅で降りた時分は、とうにバスがなくなっていた。 駅前のからりとしたアスファルト道の上に空の高いところから月光があたっていて、半分だけ大扉をひきのこした駅から出た疎(まば)らな人影は、いそぎ足で云い合せたように左手の広い通りへ向って黒く散らばって行く。 「どうする、歩くかい」 「そうしましょうよ、

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日