ひびのうつり
日々の映り

冒頭文

魚屋だの屑金買入れ屋のごたついた店だののある横丁から、新しく開通した電車通りへ出てみると、その大通りはいかにも一昨日電車がとおりはじめたばかりのところらしく、広くしん閑としていて、通りの向い側は市内に珍しい雑木林がある。右手の遠方に終点があって、市場らしい広告幟も遙かに見えるが、左の方は坂になっていて、今は電車も通っていないその坂の先は目を遮るものもなく白雲の浮いている大空へ消えこんでいる。明るい

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸集団」(名古屋帝国大学医学部学生の同人誌)、1939(昭和14)年第1号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日