そのとし
その年

冒頭文

一 雨天体操場の前へ引き出された台の上から痩せぎすな連隊長の訓辞が終り、隊列が解けはじめると、四辺(あたり)のざわめきと一緒にお茂登もほっと気のゆるんだ面持で、小学生が体操のとき使う低い腰かけから立ち上った。 源一が、軍帽をぬいで、汗を拭きながら植込の方へやって来た。そのあたりには、お茂登ばかりでなく、生れて間もない赤んぼをセルのねんねこでおぶった若いおかみさんだの紋付羽織の年寄だ

文字遣い

新字新仮名

初出

「宮本百合子選集 第五巻」安芸書房、1948(昭和23)年2月

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日