つきじがし
築地河岸

冒頭文

門鑑を立っている白服にかえして前の往来へ出ると、ひどいぬかるみへ乱暴に煉瓦の破片をぶちこんで埋めたまま乾きあがっている埃っぽい地面とギラギラした白雲との間から、蒸れかえった暑気が道子の小柄な体をおし包んだ。 永年その一画には高い高い煉瓦塀が連って空の一方をふさいでいた、そこが、昨今急に模様変えになって、高さに於ては元よりも高いコンクリート塀が旧敷地の奥の方へ引込んで新しく建てめぐらされた

文字遣い

新字新仮名

初出

「新女苑」1937(昭和12)年9月号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日