一 山がたに三という字を染め出した紺ののれんが細長い三和土(たたき)の両端に下っていて、こっちから入った客は、あっちから余り人通りのない往来へ抜けられるようになっている。 重吉は、片側に大溝のある坂の方の途から来てその質やの暖簾(のれん)の見える横丁にかかると、連の光井に、 「おい、ちょっと寄るよ」 そう云って、小脇の新聞包をかかえなおした。 「ああ」 重吉