みちづれ
道づれ

冒頭文

一 山がたに三という字を染め出した紺ののれんが細長い三和土(たたき)の両端に下っていて、こっちから入った客は、あっちから余り人通りのない往来へ抜けられるようになっている。 重吉は、片側に大溝のある坂の方の途から来てその質やの暖簾(のれん)の見える横丁にかかると、連の光井に、 「おい、ちょっと寄るよ」 そう云って、小脇の新聞包をかかえなおした。 「ああ」 重吉

文字遣い

新字新仮名

初出

「文芸」1937(昭和12)年11月号

底本

  • 宮本百合子全集 第五巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年12月20日