ズラかったしんきち |
| ズラかった信吉 |
冒頭文
(Ⅰ) 一 東海道本線を三等寝台車が走るようになった。だがあれは、三段にもなっていて、狭く、窮屈で養鶏所の人工孵卵器(ふらんき)みたいだ。 シベリア鉄道の三等は二段だ。広軌だから、通路をへだてたもう一方にも窓に沿って一人分の座席があって、全体たっぷりしてる。 信吉は、そういう三等列車の上の段で腹んばいになり、腕に顎をのっけて下の方を眺めていた。下では三人の労働者風なロシア人が、
文字遣い
新字新仮名
初出
「改造」1931(昭和6)年7~9月号
底本
- 宮本百合子全集 第四巻
- 新日本出版社
- 1979(昭和54)年9月20日