あかいかしゃ
赤い貨車

冒頭文

一 そこは広い野原で、かなたに堤防が見えた。堤防のかなたに川があるのではなく、やはり野原で、轍(わだち)の跡が深く泥濘にくいこんだ田舎道が、堤防の橋の下をくぐったさきにつづいて見えた。工事のはじめから堤防は大きな空の下で弓なりに野をはい、多分愉快な自動車道にでもなるわけらしかった。革命の時、工事が中止された。それ以来いつになっても働く人間の姿は見えず、ある個所は橋をかけるように堤防と堤防とを

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1928(昭和3)年11月号

底本

  • 宮本百合子全集 第四巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年9月20日