みかいなふうけい
未開な風景

冒頭文

○ みのえは、板の間に坐っていた。真暗な板の間であった。 みのえの前の瓦斯(ガス)コンロだけが、暗闇の中で勢よく青い広い焔をあげている。その薄明りでみのえは自分の鼻の先と手を見ることが出来る。 自分の鼻の先、それからすべっこい熱い激しい瓦斯の焔。一心に見つめつつみのえは全身の注意であっちの話声をきいていた。あっちの部屋の襖(ふすま)をしめて、母親と油井が火鉢を挾んでいた。

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1927(昭和2)年9月号

底本

  • 宮本百合子全集 第三巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年3月20日