しろいつばさ
白い翼

冒頭文

或る夕方、雄鳩が先に小屋へ入った。片隅へ遠慮ぶかく落付きながら彼は雌を呼んだ。雌が来た。入口で一寸首を傾け内部を覗いてから棲り木に移った。彼等は両方からより添って互の体を軟く押しつけ合った。 外はまだ明るかった。特に西空はたっぷり夕陽の名残が輝いて、ひらいた地平線の彼方に乾草小屋のような一つの家屋の屋根と、断(き)れ断(ぎ)れな重い雲の縁とを照し出していた。櫟(くぬぎ)の金茶色の並木は暖

文字遣い

新字新仮名

初出

「近代風景」1927(昭和2)年2月号

底本

  • 宮本百合子全集 第三巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年3月20日初版