イタリアのことう
伊太利亜の古陶

冒頭文

一 晩餐が終り、程よい時が経つと当夜の主人である高畠子爵は、 「どれ——」と云いながら客夫妻、夫人を見廻し徐(おもむ)ろに椅子をずらした。「書斎へでもおいで願いますかな」「どうぞ……」 卓子(テーブル)の彼方の端から、古風な灰色の装で蝋のような顔立ちの夫人が軽く一同に会釈した。 「お飲物は彼方にさしあげるように申しつけてございますから……」「じゃあいかがです日下部さん——日本流に早速婦人方も

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1924(大正13)年5月号

底本

  • 宮本百合子全集 第二巻
  • 新日本出版社
  • 1979(昭和54)年6月20日