なめとこやまのくま
なめとこ山の熊

冒頭文

なめとこ山の熊(くま)のことならおもしろい。なめとこ山は大きな山だ。淵沢(ふちざわ)川はなめとこ山から出て来る。なめとこ山は一年のうち大ていの日はつめたい霧か雲かを吸ったり吐いたりしている。まわりもみんな青黒いなまこや海坊主のような山だ。山のなかごろに大きな洞穴(ほらあな)ががらんとあいている。そこから淵沢川がいきなり三百尺ぐらいの滝になってひのきやいたやのしげみの中をごうと落ちて来る。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 風の又三郎
  • 角川文庫、角川書店
  • 1988(昭和63)年12月10日