星の鈍くまたたく夜、麦田の上を身を切るような風が渡る。外套の襟を深く立てて東京へ行く一番列車に乗るべく急ぐ田舎道は、霜柱が夜目にも白く、ざくりざくりと足の下に砕ける音を聞いていると、そぞろ山が思い出されてくる。こんな夜の山の寒さはまた格別であろう。それを思えば家にいて温かいこたつに当っている方が数等楽な理であるが、行けないとなると山想う心は一入(ひとしお)、切ないものがある。何故こうも山が想われる