くがつじゅうよっかのあさ
九月十四日の朝

冒頭文

朝蚊帳の中で目が覺めた。尚半ば夢中であつたがおい〳〵といふて人を起した。次の間に寝て居る妹と、座敷に寐て居る虚子とは同時に返事をして起きて來た。虚子は看護の爲にゆふべ泊つて呉れたのである。雨戸を明ける。蚊帳をはづす。此際余は口の内に一種の不愉快を感ずると共に、喉が渇いて全く濕ひの無い事を感じたから、用意の爲に枕許の盆に載せてあつた甲州葡萄を十粒程食つた。何ともいへぬ旨さであつた。金莖の露一杯といふ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆19 秋
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年5月25日