ぼくじゅういってき
墨汁一滴

冒頭文

病める枕辺(まくらべ)に巻紙状袋(じょうぶくろ)など入れたる箱あり、その上に寒暖計を置けり。その寒暖計に小き輪飾(わかざり)をくくりつけたるは病中いささか新年をことほぐの心ながら歯朶(しだ)の枝の左右にひろごりたるさまもいとめでたし。その下に橙(だいだい)を置き橙に並びてそれと同じ大きさほどの地球儀を据(す)ゑたり。この地球儀は二十世紀の年玉なりとて鼠骨(そこつ)の贈りくれたるなり。直径三寸の地球

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 墨汁一滴
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1927(昭和2)年12月15日、1984(昭和59)年3月16日第15刷改版