よわ ひめられたはこ
余話 秘められた箱

冒頭文

厳格らしい母だつた。 幼時余は、母に、『論語』を学び、二宮尊徳の修身を聴講し、『ナショナル・りいどる』巻の一に依つて英語を手ほどかれ、『和訳すゐんとん万国史』を講義された。それらの記憶は、ひどく曖昧である。『論語』では、母のそれでは、「友アリ遠方ヨリ来ル」云々に就いての解釈を朧げに憶えてゐる。『ナショナル・りいどる』では、母がそれを購ふ時「なしよなる・りいどるの巻の一……」と云つたので、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻69 秘密
  • 作品社
  • 1996(平成8)年11月25日