ちじつ |
| 痴日 |
冒頭文
一 頭の惡いときには、むしろ極めて難解な文字ばかりが羅列された古典的な哲學書の上に眼を曝すに如くはない——隱岐はいつも左う胸一杯に力んで、決して自分の部屋から外へ現れなかつた。活字の細いレクラム本に吸ひつくやうに覆ひ被さつたまゝ、終日机から離れなかつた。だが、やがて運ばれる晩飯を下宿人のやうにひとりでぼそ〳〵としたゝめてから、何か吻つとしてラムプを眺める時分になると、急にあたりが寒々として來て、暖
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「經濟往來」1935(昭和10)年2月号
底本
- 「鬼涙村」復刻版
- 沖積舎
- 1990(平成2)年11月5日