ぞくばしょうざっき
続芭蕉雑記

冒頭文

一 人 僕は芭蕉の漢語にも新しい命を吹き込んだと書いてゐる。「蟻(あり)は六本の足を持つ」と云ふ文章は或は正硬であるかも知れない。しかし芭蕉の俳諧は度たびこの翻訳に近い冒険に功を奏してゐるのである。日本の文芸では少くとも「光は常に西方から来てゐた。」芭蕉も亦やはりこの例に洩れない。芭蕉の俳諧は当代の人々には如何に所謂モダアンだつたであらう。 ひやひやと壁をふまへて昼寝かな

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文藝春秋」1927(昭和2)年8月

底本

  • 現代日本文学大系 43 芥川龍之介集
  • 筑摩書房
  • 1968(昭和43)年8月25日