ぶま
舞馬

冒頭文

1 植峰(うえみね)——植木屋の峰吉(みねきち)というよりも、消防の副小頭(ふくこがしら)として知られた、浅黒いでっぷりした五十男だった。雨のことをおしめりとしか言わず、鼻のわきの黒子(ほくろ)に一本長い毛が生えていて、その毛を浹々(しょうしょう)と洗湯(せんとう)の湯に浮かべて、出入りの誰かれと呵々大笑する。そうすると、春ならば笑い声は窓を抜けて低く曇った空に吸われるであろうし、秋ならば、

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1927(昭和2)年10月号

底本

  • 日本探偵小説全集11 名作集1
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 1996(平成8)年6月21日