シャンハイされたおとこ
上海された男

冒頭文

Ⅰ 夜半(よなか)に一度、隣に寝ている男の呻声(うめきごえ)を聞いて為吉(ためきち)は寝苦しい儘、裏庭に降立(おりた)ったようだったが、昼間の疲労(つかれ)で間もなく床に帰ったらしかった。その男は前日無免許の歯医者に歯を抜いて貰った後が痛むと言って終日不機嫌だった。為吉が神戸中の海員周旋宿を渡り歩いた末、昨日(きのう)波止場に近いこの合宿所へ流れ込んで、相部屋でその男と始めて会った時も、男は

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1925(大正14)年4月号

底本

  • 日本探偵小説全集11 名作集1
  • 創元推理文庫、東京創元社
  • 1996(平成8)年6月21日