1 露独(ろどく)連絡の国際列車は、ポーランドの原野を突っ切って、一路ベルリンを指して急ぎつつある。 一九一一年の初夏のことで、ロシアの国境を後にあの辺へさしかかると、車窓の両側に広大な緑色の絨毯(じゅうたん)が展開される。風は草木の香を吹き込んで快(こころよ)い。一等の車室(ワゴンリ)を借りきってモスコーからパリーへ急行しつつある若いロシア人ルオフ・メリコフは、その植物のにおいに