やまぶきちょうのさつじん
山吹町の殺人

冒頭文

一 男の顔にはすっかり血の気(け)が失(う)せていた。ふらふら起(た)ち上(あが)って台所へ歩いてゆく姿は、まるで幽霊のようだった。出来るだけ物音をたてないように用心しながら、彼はそっと水道の栓(せん)をねじって、左手の掌(てのひら)にべっとりついている生々(なまなま)しい血糊(ちのり)を丹念に洗い落した。それから、電灯の下へ引き返して、両手をひろげて、何べんも裏返して見たり、斜(ななめ)に

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年」1927(昭和2)年1月号

底本

  • 殺意を運ぶ列車 鉄道ミステリー傑作選
  • 光文社文庫、光文社
  • 1994(平成6)年12月20日