えいえんのみどり
永遠のみどり

冒頭文

梢(こずえ)をふり仰ぐと、嫩葉(わかば)のふくらみに優しいものがチラつくようだった。樹木が、春さきの樹木の姿が、彼をかすかに慰めていた。吉祥寺(きちじょうじ)の下宿へ移ってからは、人は稀(ま)れにしか訪(たず)ねて来なかった。彼は一週間も十日も殆(ほとん)ど人間と会話をする機会がなかった。外に出て、煙草を買うとき、「タバコを下さい」という。喫茶店に入って、「コーヒー」と註文(ちゅうもん)する。日に

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夏の花・心願の国
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1973(昭和48)年7月30日