かいめつのじょきょく |
壊滅の序曲 |
冒頭文
朝から粉雪が降っていた。その街に泊った旅人は何となしに粉雪の風情(ふぜい)に誘われて、川の方へ歩いて行ってみた。本川橋は宿からすぐ近くにあった。本川橋という名も彼は久し振りに思い出したのである。むかし彼が中学生だった頃の記憶がまだそこに残っていそうだった、粉雪は彼の繊細な視覚を更に鋭くしていた。橋の中ほどに佇(たたず)んで、岸を見ていると、ふと、「本川饅頭(まんじゅう)」という古びた看板があるのを
文字遣い
新字新仮名
初出
底本
- 夏の花・心願の国
- 新潮文庫、新潮社
- 1973(昭和48)年7月30日初版発行