何かうっとりさせるような生温かい底に不思議に冷気を含んだ空気が、彼の頬(ほお)に触れては動いてゆくようだった。図書館の窓からこちらへ流れてくる気流なのだが、凝(じっ)と頬をその風にあてていると、魂は魅せられたように彼は何を考えるともなく思い耽(ふけ)っているのだった。一秒、一秒の静かな光線の足どりがここに立ちどまって、一秒、一秒のひそやかな空気がむこうから流れてくる。世界は澄みきっているのではある