ふゆにっき
冬日記

冒頭文

真白い西洋紙を展(ひろ)げて、その上に落ちてくる午後の光線をぼんやり眺(なが)めていると、眼はその紙のなかに吸込まれて行くようで、心はかすかな光線のうつろいに悶(もだ)えているのであった。紙を展(の)べた机は塵(ちり)一つない、清らかな、冷たい触感を湛(たた)えた儘(まま)、彼の前にあった。障子の硝子越(ガラスご)しに、黐(もち)の樹が見え、その樹の上の空に青白い雲がただよっているらしいことが光線

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夏の花・心願の国
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1973(昭和48)年7月30日