あきにっき
秋日記

冒頭文

緑色の衝立(ついたて)が病室の内部を塞(ふさ)いでいたが、入口の壁際(かべぎわ)にある手洗の鏡に映る姿で、妻はベッドに寝たまま、彼のやって来るのを知るのだった。一号室の扉のところまで来ると、奥にいる妻の気配や、そちらへ近づいて行こうとする微(かす)かに改まった気分を意識しながら、衝立をめぐって、ベッドのところへ彼がやって来ると、妻はいたずらっぽい微笑で彼を迎える。すると彼には一昨日ここを訪れた時か

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 夏の花・心願の国
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1973(昭和48)年7月30日