ゆきのしま くまもとりへいしによす
雪の島 熊本利平氏に寄す

冒頭文

一 志賀の鼻を出離れても、内海とかはらぬ静かな凪ぎであつた。舳の向き加減で時たまさし替る光りを、蝙蝠傘に調節してよけながら、玄海の空にまつ直に昇る船の煙に、目を凝してゐた。艫のふなべり枕に寝てゐて、しぶき一雫うけぬ位である。時々、首を擡げて見やると、壱州(イシユウ)らしい海神(ワタツミ)の頭飾(カザシ)の島が、段々寄生貝(ガウナ)になり、鵜の鳥になりして、やつと其国らしい姿に整うて来た。あの波止

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 折口信夫全集 3
  • 中央公論社
  • 1995年4月10日