ようば
妖婆

冒頭文

あなたは私の申し上げる事を御信じにならないかも知れません。いや、きっと嘘だと御思いなさるでしょう。昔なら知らず、これから私の申し上げる事は、大正の昭代にあった事なのです。しかも御同様住み慣れている、この東京にあった事なのです。外へ出れば電車や自働車が走っている。内へはいればしっきりなく電話のベルが鳴っている。新聞を見れば同盟罷工(どうめいひこう)や婦人運動の報道が出ている。——そう云う今日、この大

文字遣い

新字新仮名

初出

「中央公論」1919(大正8)年9、10月

底本

  • 芥川龍之介全集3
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1986(昭和61)年12月1日