ごくちゅうのおんなよりおとこに |
獄中の女より男に |
冒頭文
一 私には暗い〳〵日許(ばか)り続いて居ます。もう幾日経つたのか忘れて了ひました。此処に斯(か)うして居ると堪らなく世の中が恋しくなります。貴方の傍が……貴方の傍が……貴方はあのテーブルの上でお仕事をして被入(いらつしや)るでせう? 一輪ざしの草花がもうぼろ〳〵に枯れたらうなんて昨夕も考へましたの。そして貴方は其ぼろ〳〵の花を矢張り捨てないで眺めて居て下さるんだと思つたりしてましたの。妙な事迄考
文字遣い
新字旧仮名
初出
底本
- 日本の名随筆77 産
- 作品社
- 1989(平成元)年3月25日