いどのそこにほこりのたまったはなし
井戸の底に埃の溜つた話

冒頭文

よく田舎にある、野つ原の真ん中に、灌木だの歯朶だのに、穴の縁を茂らせて、底には石や土が、埋めかけて匙を投げてある、あの古井戸の底になら、埃が溜つたつて、別に面白くも可笑しくもない。 ところが、私の今云はうとしてゐる井戸は、一方には夫婦と三人の子供、もう一方には夫婦と二人の子供が、現在住んでゐる、その共通の井戸の事なのである。 その共同の井戸に、然も蓋がしてあるのに、埃が底に溜つ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆33 水
  • 作品社
  • 1985(昭和60)年7月25日