かわはぜ |
河沙魚 |
冒頭文
空は暗く曇(くも)って、囂々(ごうごう)と風が吹(ふ)いていた。水の上には菱波(ひしなみ)が立っていた。いつもは、靄(もや)の立ちこめているような葦(あし)の繁(しげ)みも、からりと乾(かわ)いて風に吹き荒(あ)れていた。ほんの少し、堤(つつみ)の上が明るんでいるなかで、茄子色(なすいろ)の水の風だけは冷たかった。千穂子(ちほこ)は釜(かま)の下を焚(た)きつけて、遅(おそ)い与平(よへい)を迎(
文字遣い
新字新仮名
初出
「人間」1947(昭和22)年1月
底本
- ちくま日本文学全集 林芙美子
- 筑摩書房
- 1992(平成4)年12月18日