せいひんのしょ
清貧の書

冒頭文

一 私はもう長い間、一人で住みたいと云(い)う事を願って暮(くら)した。古里も、古里の家族達(たち)の事も忘れ果てて今なお私の戸籍(こせき)の上は、真白いままで遠い肉親の記憶(きおく)の中から薄(うす)れかけようとしている。 ただひとり母だけは、跌(つま)ずき勝ちな私に度々手紙をくれて叱(しか)って云う事は、—— おまえは、おかあさんでも、おとこうんがわるうて、くろう

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造」1931(昭和6)年11月

底本

  • ちくま日本文学全集 林芙美子
  • 筑摩書房
  • 1992(平成4)年12月18日