一 私はもう長い間、一人で住みたいと云(い)う事を願って暮(くら)した。古里も、古里の家族達(たち)の事も忘れ果てて今なお私の戸籍(こせき)の上は、真白いままで遠い肉親の記憶(きおく)の中から薄(うす)れかけようとしている。 ただひとり母だけは、跌(つま)ずき勝ちな私に度々手紙をくれて叱(しか)って云う事は、—— おまえは、おかあさんでも、おとこうんがわるうて、くろう